May 8, 2023

「動的な流れ」を捉えたZap Energyの核融合安定化への斬新なアプローチ

Zap Energyの核融合装置は紫色の環状のプラズマを生成し、この画像のように上部から下部へ移動するにつれて拡大する。

Zap Energyの共同創業者たちが、ついにZピンチを安定させる効果的な方法を発見

想像してみてください。ボウルに入れたゼリーを輪ゴムで束ねようとすると、どうなるでしょうか。きっとゼリーがあちこちに飛び散り、最終的にボウルの中に残るゼリーはほんのわずかになってしまうであろうことが、容易に想像できるのではないでしょうか。これこそがまさに、核融合炉の中心で超高温になったプラズマを閉じ込めようとしている状態です。

Zap Energyのリサーチエンジニアであるハンナ・ミークは、こう説明します。「プラズマが大人しくその場に留まっていてくれることはまずありません。水によく似ていて、常に抵抗の少ない方へと逃れようとします。」

プラズマは、液体と気体の両方の性質を併せ持つ、荷電粒子で構成された物質状態です。核融合反応を維持できるほどプラズマを高温・高密度状態に保つには、プラズマに触れずに、しっかりと閉じ込めておく必要があります。この難題は、実用的な核融合エネルギー装置を開発するうえで何十年も障害となってきました。中には、強力なマグネットを使ってプラズマを保持し消失を防ぐ装置や、燃料ペレットを複数基のレーザーで急速に過熱してプラズマに変えようとするものもあります。これらの実験の多くは一時的な核融合エネルギーの生成には成功しているものの、実用レベルとして十分なエネルギーはまだ得られていません。

Zピンチ技術を使った初期の核融合実験も、プラズマの閉じ込めという難題に直面して失敗に終わりました。帯電したプラズマの周囲に発生する磁場を使ってプラズマを強力に圧縮し、核融合に必要な条件を作り出そうとする手法です。Zピンチはプラズマの圧縮や加熱には優れていますが、先ほどのゼリーと輪ゴムの例と同じで不安定になりやすく、プラズマが逃げてしまうことが課題でした。

Zap Energyの共同創設者兼最高技術責任者であるブライアン・A・ネルソンは、「この不安定性は、ナノ秒単位で急速に拡大する」と言います。このような理由から、何十年もの間、Zピンチで核融合を持続させることは不可能だと考えられてきました。

そんな状況を変えたのが、Zapの共同創設者で最高科学責任者を務めるウリ・シュムラックと、ローレンス・リバモア国立研究所の共同研究者であるチャールズ・ハートマンによる画期的な研究でした。1980年代後半から1990年代初頭にかけて、シュムラックとハートマンはせん断流安定化と呼ばれる、核融合炉内のプラズマを「静的な雲」としてではなく「動的な流れ」として捉える革新的なアプローチを確立したのです。

「当時、プラズマは静止していて、速度が発生していない状態と想定されていました」と、シュムラックは振り返ります。「ある日、博士課程の指導教授に『なぜ誰も速度のことを考慮しないんでしょう?』と尋ねてみたんです。すると教授は、『いい質問だ。研究してみるといい』と言ったんです。」

シュムラックとネルソンが確立したせん断流安定化は、一連の実験装置内で超高温になったプラズマを長時間安定した状態で維持できることが実証され、Zピンチを用いた核融合炉の開発に向けた道を切り開きました。

せん断流安定化Zピンチプラズマは、画像のFuZEなどのZap Energyの核融合研究開発装置で検証されている。

Zap EnergyのZピンチで実現する「せん断流を利用した核融合」

Zap Energyの核融合装置内部では、まず中性の水素ガスを少量放出し、そこに電流を流すことで磁場が自己生成され、生成された磁場の作用で環状のプラズマが押し出されます。押し出されたプラズマは、管状の内側電極に沿って加速しながら降下していき(輪投げのリングがちょうど棒に入るような状態)、終端にあるノーズコーンに衝突します。ノーズコーンに衝突すると、流動するプラズマの周りを囲む磁場がプラズマを強力に圧縮し始め、Zピンチを形成します。同時に、ノーズコーンの形状によって環状のプラズマのさまざまな部分がさまざまな速度で流れ始め、これがせん断流になります。

「プラズマの内側と外側の層で速度がわずかに異なる状態を、『せん断』と呼んでいます」とネルソンは説明します。この速度の違いが安定化効果を生み出し、プラズマを所定の位置に保ちます。

シュムラックはこの状態を高速道路の車線(レーン)に例え、こう補足します。「速い車ばかりが走っている車線の隣に、極端に遅い車両ばかりが走る車線があると、車線変更が難しくなります。しかし、すべての車がほぼ同じ速度で走行している場合は、簡単に車線変更ができてしまいます。」

プラズマ内部の流れの速度が異なることでプラズマが安定し、核融合反応が起きてエネルギーを生成することができる。

プラズマの「レーン」をあえて異なる速度で移動させ続けることで、安定したZピンチプラズマの流れが生じ(核融合物理学者はこれを「静止」状態と呼びます)、核融合反応が発生する可能性があるほか、他社が提案する設計よりも小型で洗練された核融合装置を実現できる可能性があります。

「私たちが取り組んでいるZピンチは全長がわずか2フィートほどで、他の方式の設計と比べても信じられないほど小型です」と、Zapのリサーチエンジニアであるミークは言います。「さらに重要なのは、マグネットを使わずにプラズマを安定化できるため、装置がこれまでより軽量かつコンパクトで、装置への変更をより迅速に行えるようになったことです。マグネットを使わないことが最大の違いで、迅速な規模拡大が可能になり、他の多くの核融合方式が抱える課題の多くを回避できます。」