March 22, 2023

Zピンチで核融合の実現を目指す

明るい青とピンクのかすみがかった色は原子レベルの世界を表す。その中心にある複数の球体は、核融合を起こす原子核。

2つの原子核が結合したときに起こる核融合反応は、十分な期間維持することができれば大量のエネルギーを放出するプロセスに

「2つの原子核が結合して1つになる」という核融合の概念自体は非常にシンプルなものですが、これを実現しようとすると困難を極める作業です。なぜなら、ここで問題になる原子核は融合を好まないからです。

原子核の内部には、陽子と中性子の両方があります。その中でも唯一の例外となるのが水素で、ほとんどの水素原子の原子核は陽子を1つしか持ちません。陽子は正電荷を帯びているため互いに反発し合い、2つの原子核が融合するほど近づけることは非常に困難なのです。

Zap Energyの研究開発担当バイスプレジデントであるベン・レヴィットはこう言います。「互いに近づきたくないと思っているもの同士を、無理にものすごく近い距離に近づけようとしているのです。その互いを近づけようとする力で、反発し合う力を打ち消します。」

十分な温度と圧力を加えることができれば、原子核同士が十分に接近し、別の力がそれを上回る可能性があります。これは「強い核力」と呼ばれ、陽子と中性子を結合させる力になります。非常に強力でありながら、原子核の内側のようにごく短い距離でしか作用しません。2つの原子核を十分に近づけると融合して1つの原子核になり、これまでとは異なる大きな元素になります。2種類の水素原子が融合するとヘリウムが生成され、水素とヘリウムを組み合わせてリチウムを作ったり、他の元素と組み合わせることで他の物質を作ることができます。

核融合を地球で実現する

核融合反応は恒星のエネルギー源であり、通常は地球上では発生しません。核融合が起こるのに必要な極端な環境、つまり華氏1000万度以上にもなる温度と圧力は、私たちの惑星には存在しないのです。

しかし、特別に設計された装置を使えば、このような極限環境を再現することは可能です。1950年代以降、科学者たちは強力な磁場、電流、高出力レーザー等を用いた装置で恒星内の状態を再現する試みを続けてきました。これらの実験では、プラズマ(液体と気体の両方の性質を持つ物質)を安定した状態に保ちながら、核融合を起こすのに必要とされる非常に高い温度まで加熱することを試みるもので、これまでいくつかの実験で短い時間だけ核融合反応を維持することに成功しています。

しかし、核融合を引き起こすために使用するプラズマは生成が難しく、つい昨年まで、投入されたエネルギーよりも多くのエネルギーを放出する核融合プラズマを1つでも作り出せる核融合装置はありませんでした。2022年12月、ローレンス・リバモア国立研究所の国立点火施設(NIF)が行った実験が、十分なエネルギーを入力することで密度と温度を十分に高めた状態にし、Q=1と呼ばれるエネルギー損益分岐点をわずかに超えるのに十分な時間、プラズマを所定の位置に維持することに成功した初めての実験となりました

こういった歴史的快挙からは、核融合が仮説どおりに機能することが示されたものの、これらの手法は電力を大量に消費するレーザーを用いるため、核融合発電所の実現に向けた道筋は依然として不透明なままです。核融合エネルギーを実際に利用できるエネルギーへと変えるためには、エネルギー損益分岐点をはるかに超え、さらに何度も容易に繰り返せるような仕組みが必要です。

Zap Energyの共同創設者兼社長であるベンジ・コンウェイは、過去半世紀にわたる核融合研究の歴史から、これまでとは違うアプローチの必要性が示唆されていると言います。

「今こそ、これらの課題をもう一度違う観点から捉え直し、前進するためのより良い道筋を見つけるべき時です。」

Zap Energyの核融合装置は、超伝導マグネットや高出力レーザーを必要としません。せん断流安定化Zピンチと呼ばれる技術で高温・高密度のプラズマを安定させ、核融合反応を効率的かつ繰り返し起こせるようにします。

核融合によるエネルギー生成方法

2つの原子が融合すると新しい元素が生まれますが、その質量は元素を構成する要素の合計よりも少し小さくなります。これは、核融合反応の質量の一部が、核融合生成物にエネルギーを与える形で放出されるためです。

Zap Energyの核融合炉では現在、陽子の他に1つの中性子を持つ水素同位体、重水素を燃料としています。将来的に、重水素を2つの中性子と1つの陽子を持つトリチウム(別の水素同位体)と融合させる予定です。この2つを組み合わせることで起きる反応により、アルファ粒子とも呼ばれる荷電ヘリウム原子核と、高エネルギー中性子が生成されます。反応が1度起きるごとに、1,000万回を超える化学反応に相当する17.6メガ電子ボルトものエネルギーを生成します。こうして生まれたエネルギーの約80%は中性子に付与され、残りはアルファ粒子に供給されます。

A purple light of a plasma radiates from the second of four circular flanges of a fusion device.
Zap EnergyのFuZe核融合装置。

Zap Energyのリサーチエンジニアであるハンナ・ミークは、「これらの衝突で生じる余分なエネルギーを捕え、送電網に投入するという考え方です」と説明します。

Zap Energyの核融合炉では、加圧された核融合生成物が鉛とリチウムからなる液体金属の壁に吸収され、原子核から原子核へと跳ね返ることで加熱されます。それ以降のプロセスは他の発電所と似ており、熱を蒸気に変換し、変換した蒸気をタービンに取り込み、タービンの回転が電力として変換されて送電網に送られます。これらのプロセスをまとめて稼働中の発電所内で実現できると、人類のエネルギー需要を満たす安全でクリーンな電力を作り出すことができます。

「商業化は時間が鍵になります。これは地球にとっても同じで、核融合エネルギーをできるだけ早く実現する必要があります」と、コンウェイは言います。