August 21, 2023

Zap Energyの核融合炉の仕組み

窓から紫色の光が輝き、中にはステンレス製のチャンバーが見える

Zapの融合炉は、加速器と反応室を組み合わせた核融合分野でもまったく新しい設計

Zap Energyの核融合炉では、細やかに調整された一連のプロセスが融合の舞台を整えます。まるでオーケストラのように、すべてのステップが正確に、そして完璧なタイミングで実行されなければなりません。この進行によって核融合に必要な過酷な条件が生み出され、変革をもたらす新たなエネルギー源の実現に向けた可能性が開かれます。

Zapの技術の始まりは、20年前にワシントン大学でウリ・シュムラックが進めていた研究にさかのぼります。シュムラックはその研究で、せん断流安定化Zピンチと呼ばれる核融合への新しいアプローチを理論化しました。その研究成果を基に、彼と共同研究者たちは一連の実験用核融合装置を設計・構築し、その理論を検証してきました。

「私たちはかなり下流の工程からスタートしました」とシュムラックは説明します。「それでも、せん断流で安定させたZピンチでは電流を増やすことが可能で、さらに正しい方法をとれば核融合収率も上がるということを、モデルと実験の両方で示すことができました。」

現在Zap Energyで最高科学責任者を務めるシュムラックは、2017年にCEOのベンジ・コンウェイと最高技術責任者のブライアン・A・ネルソンとともに同社を共同設立しました。ネルソンはワシントン大学の名誉教授でもあり、1990年代からあらゆる世代のせん断流安定化Zピンチ核融合装置の設計・運用に携わってきました。

Zap Energyは現在、商業化可能な核融合エネルギーの開発を目標に、シュムラックとネルソンの初期研究を基に急速に事業を発展させています。2023年現在、Zap EnergyはFusion Z-pinch Experiment(FuZE)とFuze-Qと名付けられた2つの装置を使って研究開発を進めています。

Zピンチの解剖学

Zap核融合装置の中心を担うのは、長さ約10フィートの円筒形の真空チャンバーです。ここでは、SFS Zピンチ核融合シーケンスの4つの重要なステップが1000分の1秒未満というごく短時間で進行し、その結果、核融合エネルギーが生まれます。

ステップ 1:イオン化

まず、重水素(水素2)と呼ばれるガスを少量噴射し、コンデンサバンクから強力な電力サージを与えます。電気によってガスがイオン化され、電子が原子核から剥ぎ取られて重水素がプラズマに変わります。

ステップ 2: 加速

ガスと電気パルスの両方が真空チャンバーの片端から入ります。装置内の2つの電極の形状が強力な電磁力を生み出し、プラズマを内部電極に沿って下流側へと加速させます。

ステップ 3:ピンチ

プラズマが内部電極の端にあるノーズコーンに到達すると、周囲を取り巻く磁場によってプラズマが内側に圧縮され、細いフィラメント状になります。Zピンチと呼ばれるこの急速な圧縮により、プラズマは核融合に必要な温度まで加熱されます。これまでに観測された最高温度は、華氏約6,000万度(科学単位では3keV)に達します。

ステップ 4:核融合

こうした極限状態下では、原子核同士が反発し合う力がすべて打ち消され、原子核同士が融合してヘリウム原子核を形成し始めます。また、この反応によって高エネルギーの中性子も放出され、核融合の主なエネルギー源として利用できます。加速段階から続くプラズマの流れがピンチ状態を維持し、核融合が起こる時間を延ばします。

手順自体はシンプルに見えますが、プラズマが十分な高温・高密度状態を維持し、長時間安定していられるようあらゆる要素を正確に調整するのは非常に難しい作業です。

Zap Energyのリサーチエンジニアであるハンナ・ミークはこう説明します。「プラズマは基本的に帯電したガスであり、動きのある流体のように振る舞ってはいますが、磁場の影響を強く受けます。最も厄介なのは、その不安定性です。タイミング、ガス圧、または電圧のわずかな変化によって、プラズマのダイナミクスが完全に変わってしまうのです。」

エネルギー利得達成に向けた進歩

Zapはすでに独自のアプローチで核融合エネルギーを生成できることを検証済みで、モデル解析によると、ピンチ時の電流が増えるほど核融合も強まり続けることが示唆されています。FuZEでの研究開発が成功したことで、より強力なコンデンサバンクや電極設計、材料、診断技術などを組み合わせた最新世代の核融合装置Fuze-Qが開発されました。FuZEとFuzE-Qはいずれも、すでに何千回もの核融合プラズマの生成に使用されており、Zapはピンチ時の電流を着実に引き上げながら大量のデータを蓄積することで、プラズマから獲得できる核融合エネルギーが入力エネルギーと同等になる分岐点(科学的Q=1)の達成という、壮大な目標に近づきつつあります。

画像のFuZEは、Zapの研究開発用Zピンチ核融合炉の第3世代。装置の周囲にある各種機器と計測装置は、科学的実験の結果を測定するもの。

ピンチでは強力な乗数効果が見込めることも、Q=1達成を後押しする利点となるとして、適切に統制され安定したピンチ状態では、電流が少し増加しただけでもプラズマの温度と密度が大幅に上昇し、最終的に生成される中性子の数も増えると言います。

「その乗数効果は指数関数的で、電流を2倍にすると2,000倍以上の中性子が生成されます。言い換えれば、私たちは今まさに、分岐点となるような成長曲線の上に立っているのです」とレヴィットは言います。

Zピンチによって生じる磁場はプラズマを強力に圧縮して細い柱状にし、極端な高温・高密度状態を発生させる。現在の装置は作業のしやすさを重視して水平構造になっているが、将来の装置は垂直方向での設置が可能となる予定。FuEとFuZE-Qはいずれも水平設計だが、今後はアニメーションで示されているような垂直設計が想定されている。