March 22, 2023

Zピンチの歴史 マグネットを使わず磁場で圧縮

この画像からは、赤茶色の棒が圧縮され、内側に亀裂が生じていることがわかる。棒の周りに描かれている環状の青い線は、電磁気が内側に向かってピンチ(圧力)をかけている様子を示す。

「ピンチ効果」を体現した落雷。その基礎原理がZap Energyの核融合技術の根幹に

1800年代後半、オーストラリアのニューサウスウェールズ州にある灯油精製所が落雷に見舞われた後、1つの謎が残りました。雷は製油所の屋根に設置されていた避雷針に直撃し、中空構造の金属管がまるで巨人の手で押しつぶされたかのようにくしゃくしゃになっていたのです。製油所のマネージャーがこのくしゃくしゃになった避雷針をシドニー大学の2人の科学者に送りましたが、そうでなければ、単なる不思議な現象として片付けられていたかもしれない出来事です。

そのマネージャーは知る由もありませんでしたが、彼が送った避雷針こそ、初めての核融合実験のきっかけとなったのです。

A compressed and distorted piece of metal is at the foreground of the industrial landscape of a kerosene refinery.
1905年、落雷によってくしゃくしゃになった灯油精製所の避雷針がZピンチの物理現象を如実に表す最初の例となった(画像提供:©シドニー大学 Anyu Zhang氏)

1905年に製油所から送られてきた避雷針を調査したジェームズ・ポロックとサミュエル・バラクラフは、避雷針が押しつぶされた理由を、雷が直撃したことによる打撃のせいではなく、磁場による作用だと結論付けました。2人はこの調査が行われる以前から、2本の電線に対して同じ方向に電流を流すと、まるで2本の電線が抵抗できない力によって引き寄せられるようにして互いの方向に曲がることに気がついていました。この現象は、電気と磁気の基本的な関係によって説明がつきます。一般的には電流と呼ばれる電子の移動によって、比例する磁場が周囲に生成されるのです。

物理学の学生は、いわゆる「フレミングの右手の法則」を使って、この力がどのように作用するかを暗記しています。右手の親指を電流の方向に向け、他の4本の指を内側に畳むと、関連する磁場の方向がわかります。

シドニー大学の元物理学教授であるブライアン・ジェームズは、ポロックとバラクラフの発見は、中空構造の金属棒が、電線を並べて円を作った状態と同じであることに気づいたところから生まれたと言います。「金属管に並列電流が流れた時にこの圧縮効果が発生する原理を説明したのは、彼らが初めてです。」

ポロックとバラクラフが避雷針で観測した力は、物質を内側に押しつぶす性質から、のちに「ピンチ効果」と呼ばれるようになりました。それから数十年が経った現在、この現象はZap Energyの核融合技術の根幹となっています。

金属棒から核融合コアへ

核融合は、2つの原子核が一定以上の力で互いに衝突した時に結合(融合)することで発生します。原子核は通常、互いに反発し合うため、核融合を発生させるには多くのエネルギーが必要です。核融合実験のほとんどでは、原子を十分な速度で移動させるために、プラズマと呼ばれる物質の状態を華氏100万度以上に加熱するという手法に頼っています。

プラズマを核融合に必要な超高温まで加熱する方法の1つに、強い力でプラズマを圧縮するというものがあります。1957年、英国で制御熱核反応装置(ジータ/ZETA)を用いた実験が行われ、まさにこの実現に向けた試みが始まりました。ZATAの核融合装置は、ポロックとバラクラフが50年以上前に発見したのと同じピンチ技術を使ったものです。

プラズマは、気体と液体の中間のような振る舞いをする物質状態を指し、イオンや電子などの荷電粒子で満たされています。このような荷電粒子があるということは、銅線に電流を流すのと同じように、プラズマにも電流を流すことができることを意味します。フレミングの右手の法則に従うと、電流は周囲にそれと比例する磁場を作り出すので、電流が大きければ大きいほど磁場も強力になります。

ZETAコアの内部では、水素ガスに電流を流すことでプラズマを生成しました。そして、プラズマにより多くの電流を流すことで、電流が流れる軸にピンチ効果(この場合はZピンチ)を発生させることを目指しました。電流が十分な大きさであれば、ピンチ効果によって原子核が融合を起こすのに十分な温度までプラズマが加熱され、核融合で放出された高エネルギー中性子を捕獲して電気エネルギーを生成できます。当初、この実験に対する期待は非常に高まっていました。

「誰もが簡単にいくだろうと思っていました。ガスに大きな電流を流せば、ピンチによって非常に高い温度まで引き上げられ、たくさんの中性子が放出されるだろうという想定だったんです」とジェームズは言います。

そう簡単にはいかない核融合開発のフラストレーション

実験で最初に得られた結果は、ZETAの成功を裏付けるかのように見えました。研究者たちは、実験によって大量の中性子が放出されたことを観測したのです。これこそまさに、核融合反応が発生したことの証拠として探し求めていたものでした。1958年1月の科学ジャーナル『ネイチャー』の記事、そして同月に開かれた満員の記者会見の中で、この実験に携わった研究者たちは、核融合反応を起こすことに成功したと十分に確信している、と発表しました。

この結果は英国でも広く伝わり、大いに盛り上がりました。ロンドン・デイリー・スケッチ誌は「A Sun of Our Own(太陽を手に入れた)」という見出しをつけ、ちょうど当初、ソビエト連邦が世界初の人工衛星スプートニクを打ち上げたことに匹敵する偉業と位置付けられました。

しかし、その称賛は短命に終わります。より多くのデータが明らかになるにつれ、ZETA実験の中性子は核融合によって生じたものではなく、プラズマ自体の不安定性に関連するまったく異なるメカニズムから生じたものであることが判明したのです。人間は太陽を作ってなどいなかったのです。

Zピンチ装置を使ったその後の研究でも、核融合反応を維持するうえでの主な課題が明らかになっていきました。

「実験ですぐにわかったのは、プラズマの不安定性でした」とジェームズは言います。「[プラズマを]ピンチ(収縮)して加熱すると、折れ曲がったり、ねじれて壁にぶつかったりして、放電が終了してしまうのです。」

こうした不安定さから、結局Zピンチは何十年もの間活用されることなく放棄され、他の方式を用いた核融合装置の設計が進んでいきました。その大部分は、巨大な超伝導マグネットを使ってプラズマを閉じ込めようとするトカマク型に集中していましたが、これらの実験にも独自の課題があることが明らかになり、実際に稼働できる核融合炉の開発は行き詰まりました。 

Zピンチ活用への新たな進路が浮かび上がる 

この数十年で私たち人間のエネルギー需要は劇的に増大し、それと同時に化石燃料を燃やすことによる気候への影響が高まっています。プラズマ物理学の発展、そして新たな材料や技術の登場によって核融合開発の新たな可能性が生まれたことを受け、核融合エネルギーのように豊富な再生可能エネルギー源の必要性は高まり続けています。

Zap Energyの共同創設者兼CEOであるベンジ・コンウェイは、「人類が今後数十年という短い期間に限らず、数千年、そしてそれ以上の年月もこの地球上で繁栄し続けられるような高度な文明を作るためには、核融合が必要です」と述べています。

A bevy of thick, insulated electrical wires converge into the crown-shaped steel head of a Zap Energy fusion device.
ZapのZピンチは、平均的な稲妻の20倍の強さの電流を放出できる強力なコンデンサバンクで駆動。

起業家、投資家、元外交官であるコンウェイは、ワシントン大学のウリ・シュムラック教授とブライアン・ネルソン教授による「せん断流安定化」と呼ばれる方法を実証した実験成果を知ることになります。そうして出会った3人は、Zピンチを用いた核融合技術の開発を目指すベンチャー企業として、Zap Energyを設立しました。

こうして、ポロックとバラクラフが避雷針に起こったZピンチ現象を解明してから1世紀以上が経った今、核融合分野に最も古くから存在する概念の1つが、新たな道を切り開くこととなったのです。

編集者注:この記事は、Zap Energyの新しいブログに投稿した最初の記事です。Zap Energyのブログでは、核融合発電の実現に向けて取り組む人々、その背景にある科学や技術について詳しく解説しています。