November 20, 2023

核融合の連続発生を支えるエンジニアリング

大型の電子機器の前に立ち、ネイビーブルーのブラウスを着てカメラに向かって笑う黒髪と褐色の肌の女性の写真

ヴィディヤ・ナラジャラ率いるチームは、Zap Energyの繰り返し動作可能な高度な電源供給装置を開発。1日に何十万もの核融合パルスを駆動する高電圧スパークプラグの役割を果たす

Zap Energyの核融合装置の性能で最も重要なのは、電流です。原理的には、電流が大きければ大きいほど装置が生成できる核融合エネルギー量は大きくなります。また、核融合反応の頻度が高いほどグリッドに供給される正味エネルギー量も増えるため、再現性(反復性)も重要です。毎回の核融合によるエネルギー放出を実用規模の電力に変換する電源には、非常に大きな電流を放電でき、さらにそれを物理的に可能な限り頻繁に実施できるという、2つの面を兼ね備えることが求められます。

核融合プラントの心臓部を設計するチーム


Zap Energyで先進的な繰り返しパルスパワー電源の開発チームを率いるのは、ヴィディヤ・ナラジャラです。当チームが開発する高電圧電源は、毎分数百回というペースで点火し、電流1メガアンペアのパルス1回につき、1億分の1秒〜2億分の1秒の間持続します。ベースロード電力の需要に応えるため、この電源装置は数か月にわたって1日に数十万回もの核融合反応を起こす設計です。

「この電源の開発には、計り知れないほどの課題が伴います。これまで、このようなことを成し遂げた人は誰もいないのですから」と、ナラジャラは言います。

Zピンチに電流を送り込むパルス電源は、Zapが開発中の核融合エネルギー装置の中でも最大のコンポーネントとなる。


高地砂漠で研究した高エネルギー密度科学

ナラジャラは2022年にZap Energyへ入社する前、ネバダ大学リノ校にある大規模研究施設「ゼブラパルスパワーラボ(Zebra Pulsed Power Lab/ZPPL、旧ネバダテラワット施設)に15年以上勤務し、恒星の内部と同じ極限環境にプラズマをさらすという、高エネルギー密度物理学の研究を行っていました。


この巨大な研究施設には、ロスアラモス国立研究所から寄贈され、サンディア国立研究所と共同で設置された米国内の大学で最大規模となるレーザーとパルスパワー加速器があります。「ゼブラ」と呼ばれるこの装置は、ターゲットに200万ボルトの電流を流し、それを太陽の内部に匹敵するほどの超高温のプラズマに変えることができます。


バッテリとスーパーキャパシタはほとんどの商業用途において十分に高速放電できるため、「繰り返しパルスパワー」は電気工学の中では比較的小さな分野とされています。しかし、ZPPLで長年働いてきたナラジャラは、パルスパワー、プラズマ、Zピンチ、そして核融合エネルギーのすべてが交差する場所で最先端の研究に携わり、コンパクトなZピンチプラズマ装置をテーマにした修士論文も執筆しました。

2005年から、ネバダ大学リノ校のゼブラパルスパワーラボで何十もの研究プロジェクトに取り組んできたヴィディア・ナラジャラ(写真提供:ヴィディア・ナラジャラ、2018年)。


ZPPLでの経験は、ナラジャラのリーダーシップスタイルの形成・発展にも貢献しました。複雑な研究プロジェクトを遂行するために、UNRの物理学部生のチームを訓練・統率する必要があったためです。彼女は当時のことをこう振り返ります。「何年もの間、レンチやプラスドライバーが何かもわからないような18歳の学生たちを訓練してきました。でも、若い世代の頭脳と交流するのがすごく好きなんです。彼らのアイデアを聞くのが楽しいですね。」


配線の細部まで考慮する


ナラジャラと協力することの多いメンバーの一人に、Zapのパルスパワー部品開発部門を率いるマット・オーブションがいます。オーブションは、ナラジャラがスタートアップ企業独特の曖昧さにうまく対処し、チームメンバーを巻き込んで物事を明確化する戦略的な能力があると評価しています。


「ヴィディアはとても謙虚で、腰が低くおごった態度をとることもありません。彼女は必要なタスクを長い目で見通すことができ、人とプロセスの両方を整理して長期間にわたって実行するのが本当に上手い。どうすれば物事を成し遂げられるか、会社にとって良い手本を示してくれています。」

耐用年数内に数十億回ものショットが可能な電源装置を開発するには、トポロジ、計装、絶縁、冷却など、プロジェクトのあらゆる側面で再現性と耐久性を最優先する必要があります。ナラジャラは、高いレベルのビジョンを維持しながら、どんなに細かいディテールをも見逃さずに突き詰めることが、自分の役割だと考えています。

日次で行う進捗確認では、コンポーネントの選定やテスト、建設スケジュール、システム統合に関する議論など、話題が素早く移り変わります。ナラジャラは特定のワイヤゲージを抜き打ち検査することでも知られており、重要なコンポーネントを迅速に処理できるようサプライチェーン担当者との密な連絡も欠かしません。

エンジニアのブラッド・メイナードが、ワシントン州マキルテオにあるZapの施設に設置された第1世代の100kW電源(100kWps-01)のコンポーネントについて説明している様子。


昨年、彼女のチームが大きな成果を上げました。新しいパルス変圧器を電源に統合することに成功したのです。その取り組みについて語る時、ナラジャラの表情は普段より一層明るくなります。これまで変圧器に取り組んだ経験のあるメンバーがおらず、ナラジャラ率いるエンジニアたちが社内で一から設計しました。初期バージョンをテストする際は、目標性能に達するまで、コンポーネントを手作業で巻いたり包んだりして検証をしていました。こうして出来上がった変圧器によって電流を3倍に増やすことに成功し、パルスの繰り返し率もこれまでで最高の水準に達したのです。

「的確な表現が見つからないけれど、ここはとても良い雰囲気です。全員が力を合わせて問題を解決しようとしています。」

ワシントンにあるZap Energyの施設でのケーブル配線と高電圧差動プローブ。

核融合の未来を思い描く

今年の初め、Zapが初めて試作した高度電源装置は、約10秒ごとに1パルスというペースで高電圧パルスを1,000回連続で放電することに成功しました。現在は、次のマイルストーンであるプラズマの動的負荷に対応できる電源装置の検証・開発の実現に取り組んでいます。この装置はより実際に近い条件で動作し、本物の発電所環境をさらに正確にシミュレートできるよう設計されており、すでに新しいシステムでテストショットが行われています。


Zapに入社して1年半が経った今も、ナラジャラは自分のチームが今後もこの技術を発展させていくことを確信しています。彼女は、チームが日々研究室に持ち込む姿勢こそ、着実な進歩を遂げるうえで大切な要素だと言います。


「粘り強さや決意、あるいは解決策を見つけたいという渇望、とも呼べるかもしれません。このチームは、『何があっても成し遂げてみせる』という気概にあふれているんです。」